リーダートークセッション(第2回)
📅 2024.11.27
大阪市中央区
2024.9.10
コロナ禍を経て外国人観光客の姿をたくさん見かけるようになった大阪の街。そんな観光客に向けた新サービス「Osaka JOINER(オオサカジョイナー)」が2024年3月にスタートしました。今回は、サービスを手掛けた大阪メトロ アドエラの吉田瑛仁さんと佐々木美恵さんを取材しました。
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なんば駅の地下を歩いていると突如現れる巨大広告。外国人と日本人が楽しそうに食卓を囲んでいる写真などを目にして「なんだろう?」と気になった人も多いのでは? これは今回紹介する体験型ツアーガイドサービス「Osaka JOINER」の広告です。
本サービスでは「大阪らしい食やお酒を楽しみたい」「地元の人と交流したい」という旅行者の希望をもとに、JOINER(ジョイナー)と呼ばれるガイドが旅行者とお店や人を「つなぐ」役目を果たす体験ツアーを組んでいます。
観光客は予約サイトやSNS、なんばにある拠点などから相談可能で、好みや希望を伝えればJOINERがおすすめの工程を組んでくれます。しかも当日1時間前の申し込みにも対応できるという瞬発力。
この独特なサービスを仕掛けた株式会社大阪メトロ アドエラの吉田さんは、「大阪は街自体が観光コンテンツ。ここにしかない人たちと出会ったら、きっと大阪を好きになるはず」と話してくれました。
名所だけでなく、大阪の人と旅行者をつなぐ考え方は、万博を開催する街全体が必要な視点のような。そこからは旅行者が大阪へ抱いている興味だけでなく、大阪で暮らす私たちも身につけたい「つながる術」が見えてきました。
吉田瑛仁
株式会社 大阪メトロ アドエラ 事業創造本部部長(新規事業・オープンイノベーション担当)兼OOH事業本部事業推進部ディレクター、aeru Osakaプロジェクトリーダー、Osaka JOINERプロジェクトリーダー。早稲田大学人間科学部卒業後、ベンチャー企業での勤務を経て、国土交通省へ。在職中は観光庁に配属された経験も持つ。地方活性化を自身のテーマとしインバウンド事業に力を入れる。「Osaka JOINER」では、サービスやスキームづくりをおこなう全体統括を担当している。
佐々木美恵
株式会社 大阪メトロ アドエラ 事業創造本部Osaka JOINERなんば拠点リーダー兼企画開発チームチーフ。立命館アジア太平洋大学アジア太平洋学部卒業。学生時代から海外に興味があり、社会人として3年働いた後にオーストラリアでのワーキングホリデーを経験。Osaka JOINERでは現場のまとめ役としてガイドの採用や研修などを担当する。本人もJOINERとして活躍し、英語だけでなく韓国語にも対応可能。
大阪メトロ アドエラは、主に交通広告事業をおこなっている大阪メトロのグループ会社です。これまで新規事業として観光を軸に、旅行者と事業者、地域の人をつなげるプロジェクトを進めてきました。例えば「aeru OSAKA」もその一つ。観光で訪れた人たちに、ユーモア溢れる大阪人と出会ってほしい! という思いから「大阪のおもしろい人たち」に取材をし、彼らがどこに暮らし、どんなサービスを営んでいるのかを紹介する手帖「aeru OSAKA」を作りました。
「Osaka JOINER」は、大阪の街を愛する大阪メトロ アドエラだからこそ生み出せた、といっても過言ではないかもしれません。その仕組みや実りを、たっぷり語っていただきましょう!
2025年の大阪・関西万博の開催も含め、これからさらに外国人観光客が増える見込みの大阪ですが、「これまでアジア圏からの旅行者が多かった大阪では欧米豪の旅行者のニーズにあったサービスが弱かった」と吉田さんは言います。
欧米豪の外国人の大阪に対するイメージは、歴史文化が豊富なこと以外に「食べ物が美味しい街」「人情味に溢れた温かい街」「アミューズメント、エンターテインメント都市」などがあり※、それを体験するために「もっとローカルに入り込んだ体験をしてみたい!」というニーズを持つ旅行者が多いそうです。
(出典:大阪府「9.各種調査結果のまとめ」)
しかし実際の街には、英語が通じない、ネット予約ができない、キャッシュレス決済に対応していないなど、体制が整っていない現状がありました。また、欧米豪の旅行者から「今日・明日などの直近の予約をしたい」、「ツアーのカスタマイズをしてほしい」といった希望が寄せられていますが、このニーズに対応できるサービスも多くありません。
背景には大阪の個人店の多さがあります。店主一人でやっているような小さなお店は、インバウンドに対応したくても準備をする時間やノウハウが十分になく、英語や宗教などへの対応も不安な場合があります。また通常の観光ツアーはある程度のプランが決まっており、個人の好みに合わせて直前に、その都度アレンジできるツアーは多くはありません。
そこで「Osaka JOINER」ではJOINERがお客さんの希望に沿って、一緒に街やお店を巡るツアーを企画しました。
JOINERがなんばにある拠点に3〜4人以上常駐することで、当日の1時間前まで予約が可能。要望や好み、これまで訪れた場所、やってみたいことなどをヒアリングし、一人ひとりにあったプランを提案します。
当初は拠点のあるなんばエリアのお店を中心に紹介していましたが、その範囲は徐々に広がり、提携店舗は現在400店まで増加しました。
さらに案内するのはOsaka JOINERの提携先だけとは限らず、観光客の希望する店舗や関西の他の地域をガイドすることもあるなど、臨機応変に対応しています。
開始からすでに多くの外国人観光客に利用されている「Osaka JOINER」。当日の予約といったニーズへの対応や手の届かなかった小さな点に行き届く対応力という魅力はあるものの、国を跨ぐインバウンド事業はサービス浸透に時間がかかるのが一般的。こんなに早く広まったのはなぜでしょう?
訪日旅行者の動線である電車や駅などでのプロモーションに加え、観光案内所や大阪港、宿泊施設など大阪のみなさまとの連携が進んだことが大きかったと思います。これは大阪メトロのグループ会社という土台があったからできたことです。また実際にホテルで働くスタッフの方々にツアーを体験して良さを実感してもらったこともあり、業界の中で口コミを広めることができました。例えば、五つ星ホテルであれば現在大阪のほとんどのホテルと提携しており、旅行者に大阪のいろいろな場所で僕たちのサービスを知ってもらえます。
事前にマーケットリサーチを徹底したところ、観光産業の人なら誰もが感じていた「今から何かできない?という観光客の希望に応えられないもどかしさ」を解決できるサービスが、実はこれまでほとんどなかったんです。
予約方法を旅行者目線になって柔軟に考えたことも要で、トリップアドバイザーやWhatsAppからも問い合わせを受け付けるようにしました。カジュアルにコミュニケーションをとることができ、予約しやすくなったと思います。
天保山にある大阪港にもブースを設置しており、クルーズ旅行の乗客へ声をかけながらサービスを案内しています。一度に2,000〜4,000人程度の乗客が降り立つこともあるのですが、その後の予定を決めていない人も多いんです。大阪がどんな街なのかを知らない人もおり、「今だったらこんな旬のものが食べられますよ」「私たちが一緒に行くことで、地元の人とこんな交流ができますよ」と魅力を伝えています。
クルーズの乗客の中には京都を目的地としていたけれど、JOINERの説明を聞いて大阪観光に変える人も多いそう。そして、ほぼすべての人が大阪を大好きになって帰っていくというからうれしいものです。
大阪は人が温かく、飲食店に行くと店主も熱い思いを持って前のめりに大阪のことやそのお店の食事などを説明してくれるんです。私は愛媛県出身なのですが、大阪の人って他県とは違って知らない人にどんどん話しかけますよね。だから旅行者とお店に行くと、店主だけでなく常連さんから「これ通訳して!」とコミュニケーションをとろうとしてくれることが多くて(笑)。旅行者も「大阪ならではの体験」と喜んでくれます。
大阪の日常をありのまま体験してもらうことに、すごく価値があると思うんですよね。自然発生的なコミュニケーションが多い街であり、それが大阪の価値。まさに、街自体が観光コンテンツです。それをしっかりと体験してもらうことが必要だと感じていて。Osaka JOINERを利用する観光客を見ていると、街にある雑居ビルの店に上がっていく様子を撮影したり、地元の人と楽しく飲んでいる場面で写真を撮ったり、何気ないシーンにすごく喜んでいるのが伝わってきます。
人気があるのは「桝田商店」や「みぞぐ」などですね。「桝田商店」は酒屋と併設した立ち飲み屋なのですが、レアな日本酒も多く、お店の人が好みを聞いておすすめしてくれるんです。何よりも常連さんがめちゃくちゃ絡んでくれるので、盛り上がるんですよ。このようなお店と多く連携し、今後も加速させていきたいです。
「Osaka JOINER」の評判が良いもう一つの理由は、JOINERの存在。ガイドというと深い知識が求められるように感じますが、吉田さんや佐々木さんが求めるのは大阪らしく、アットホームでフレンドリーな「友達ガイド」。旅行者に好評であるホスピタリティ溢れるコミュニケーション力や柔軟性を重視しているのだとか。
基本的に相手の話をしっかり理解しようとする姿勢があるか、自分の言いたいことをちゃんと伝えられるかというコミュニケーション力を求めています。現在のJOINERに共通しているのは海外留学や生活の経験または興味があり、ホスピタリティがあること。そして大阪が好きでお世話好きな人が多いかも。大阪に来てくれた旅行者を全力で楽しませてあげたいと考えてくれる人が一番向いているのかなと思います。
以前はガイドをする際に全国通訳案内士の国家資格が必要でしたが、2018年の法改正によって研修などを受ければ資格がない人もガイドができるようになりました。しかしやってみたいと思っても、経験がないと活躍できないことが多かった。だからこそ「Osaka JOINER」ではローカル志向の旅行者と大阪の街をガイドが「つなぐ」スタイルを構築しました。ガイド一人が頑張るのではなく、行く先々の方と連携して街全体でおもてなしをするという考え方により、未経験でも思いやキャラクターを発揮して活躍することができると考えています。
お客さんも気分によってツアー中に行きたい店や食べたいものが変わることもあるので、柔軟に合わせられるとうれしいです。さらに旅行者と店主や常連さん、学芸員さんの間に入ってお酒や食事、歴史のような説明はもちろん、カジュアルな会話も通訳する。本当につなぐ役なんです。
友達ガイドに大切なのは旅行者と事業者の双方に寄り添い、つなぎ、自身も楽しみながら交流を促進すること。その気持ちがあると、キャッシュレスが使えないといった一見マイナスに見える面も「店主の一円でも安く提供したいという思いから」というような、その店の個性や人柄を感じられるプラスの一面に変えて伝えることもできます。
誤解や壁を少なくし良さを伝える姿勢は、大阪・関西万博を控えた私たちにとってはガイドでなくとも必要なことであり「つながる術」なのではないでしょうか?
最後に、お二人に今後の展望を聞きました。
今後は、つなぐ役目だけでなくハラルツアーやベジタリアンツアーなどのニーズに対応するコンテンツも作りたいです。食事を楽しみに大阪を訪れるイスラム教徒やベジタリアンの旅行者も多いのですが、日本ではまだ対応できるお店が少なく、旅行者も飲食店を探すのに苦労しているようで。「Osaka JOINER」に来ていただけたらなんでも解決しますというスタンスで今後も観光客をおもてなししたいです。
僕はクラフトビールがすごく好きなのですが、旅行者にも旅先のローカルビールを飲みたいというニーズがあり、大阪の醸造所と連携してローカルビール巡りをするといったコンテンツを考えたいですね。そのように旅行者のニーズに寄り添いながらこちらからプランを提案することもできる、サービスのさらなる魅力向上を図りたいです。
僕も佐々木もJOINERを務めることがあって、3時間ぐらい観光客と一緒に過ごすと本当に仲良くなれるんです。濃厚なコミュニケーションがとれることで、旅行者の求めていることもさらに具体的に知れますし、旅行者は僕たちのおすすめもちゃんと聞いてくれます。リアルな声と大阪にいる僕らの情報を組み合わせて、もっともっとローカルな場所を案内できたらうれしいですし、大阪を訪れる外国人旅行者に大阪にとどまらず、日本の地方部などの良いところも紹介していけたらと思います。
旅行者と大阪のお店や人をつなぐことからはじまった「Osaka JOINER」。このサービスが広がり、大阪で暮らす人にとっても身近な存在になれば、外国人観光客とつながるために必要な視点や技術を身につけた、もしくは身につけようとする街の人や個人店が増えるかもしれません。
そんな良い循環が生まれることで、2025年の大阪・関西万博の頃には、大阪はどのような街になっているでしょう? バリアをなくし、大阪のおもしろさを見つけて伝える人が増えることで、さらに「大阪の宝」である温かい雰囲気を育むことができる。その気持ちがより多くのディープな魅力にひかれる観光客と熱い気持ちを持った地元の人をつなぎ、さらに大阪の街全体を盛り上げてくれるかもしれません。
取材・文:小島知世
編集:森木あゆみ
写真:西島本元
企画・編集:人間編集部