大阪スパイスカレーは世界に届くのか!?関西カレー保安協会が守り続けるカレーの聖地

2023年に発足した「関西カレー保安協会」は、スパイスカレーの聖地と呼ばれる大阪をはじめ、関西のカレーカルチャーを「勝手に」守るために発足。関西カレー保安協会が主催するイベント「SAVE THE CURRY Vol.04」にお邪魔して、会長の三嶋達也さんにお話を伺いました。

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カレーコミュニティ「口癖はカレー」を主宰し、様々なカレーイベントの企画やカレーコラボ商品のプロデュースに携わり、関西のスパイスカレー業界で、その名を知らない人はいないと言われる三嶋達也さん。長年スパイスカレーと向き合う中、関西のカレー文化を体系づけて研究・発信することの必要性を感じてきたと言います。そこへ仲間として加わったのは、大のカレー好きである4名。年間400食カレーを食べる編集者のトミモトリエさん(株式会社人間編集舎 代表)、TV番組「おとな旅あるき旅」のリポーターでおなじみのカレー好きタレント・小塚舞子さん、スパイスカレー好きアートディレクターの大垣ガクさん(アシタノシカク株式会社 代表)、「口癖はカレー」創成期メンバーで元広告マンの宴太朗さんです。

こうして「守らなあかん カレーがあるねん」という言葉のもと、2023年に関西カレー保安協会が発足。現在は、カレーの歌しか歌わないアーティスト・かりぃぷぁくぷぁくさんなど更にメンバーが増えているそう。

今回は発案者であり会長を務める三嶋達也さんに話をお聞きしようと、イベント「SAVE THE CURRY」を訪問! 大阪のスパイスカレーの魅力と活動について、改めて語っていただきました。

関西カレー保安協会

三嶋達也

自称カリービッグボス。FBグループ「口癖はカレー」主宰。「ニッポンカリー オルタナ。」を経て、現在は「ドラマチックカリー ゴールデン中崎」をプロデュース。大阪スパイスカレーの食文化発展を願って、「ミシマ・ネバーエンド」としてソロのカレー活動、居酒屋業態へのスパイスメニュー開発、カレーイベントの主催、各メディアの取材協力など多岐にわたり活動している。

王道とはひと味異なる作り方が魅力。自由に発想を育む、スパイスカレーの世界へようこそ!

大阪のスパイスカレーといえば出汁を使ったメニューなど、個性的なカレーがいくつか頭に浮かぶ人も多いはず。お気に入りの店がある人も少なくないでしょう。しかし、その魅力はひと言ではなんとも表し難いもの。

三嶋

大阪のスパイスカレーは現地のカレーをリスペクトしながら自由に置き換えていってるんですよね。例えば、インドカレーはトマトをよく使います。トマトに含まれるグルタミン酸は旨味としての役割があるのですが、大阪の場合、旨味の表現としてトマトを昆布に置き換えて出汁にしちゃうお店もある。しかも、ここは出汁文化の街なので旨味に対するこだわりがあって、昆布だけを使う人もいれば、いり粉を使う人もいるなど、自由な発想で工夫されている。そんな独創性や、大阪で脈々と続いてきたカレーカルチャーを伝えていきたいと思っています。

関西カレー保安協会が発足して早2年。最近はスパイスカレーについての取材や問い合わせも増えて、徐々に関西のカレーに関する窓口としての顔も持ち合わせてきたそうです。

三嶋

美味しさだけでなく、「どのように関西スパイスカレーが発展してきたのか」という歴史的な部分も正しく伝えたいと思っていて。多くのカレー店に影響を与えたレジェンドや、特徴的なことをはじめた原点となる人たちなど、重要人物を取材して情報をまとめています。定期的に開催しているイベント「SAVE THE CURRY」は、カレーの作り手やカレーを愛する人たちと語り、活動の輪を広げていくためのカレー交流会。このイベントでしか食べられないスペシャルコラボカレーを販売したり、カレーの作り手とのトークショーを開いてきました。その内容をもとに現在、「咖喱人 – CURRY PEOPLE」と題したZINEを作ろうとしています。ゆくゆくは関西の代表的なカレー屋さんをフィーチャリングした書籍としてまとめられたらと思っています。

旧ヤム邸のオーナーである植竹大介さんと関西カレー保安協会のメンバー

カレークイズに挑戦できる「関西カレー検定」の企画や、カレーを愛するAI「マモルくん」の開発など、活動は多岐にわたります。大阪・関西万博の熱気が漂う街中で、現在行われているイベント「SPICE DIVE! OSAKA~世界と出会った大阪スパイスカレー~」の企画協力もしているそう。

もしもあのお店があの国と出合ったら……? 楽しい妄想がひと皿に詰まったイベント

「SPICE DIVE! OSAKA~世界と出会った大阪スパイスカレー~」は、Osaka Metroとハウス食品グループが主催するデジタルスタンプラリーイベント。Osaka Metro沿線に位置する31店舗の人気店が協力し、イベント期間中は世界の料理をテーマにしたアレンジスパイスメニューが提供されています。今回、関西カレー保安協会はお店への依頼やメニュー相談、ポスターのデザインなどを担ったそう。

Osaka Metro各駅や車両でも目にするポスター。世界各国のアレンジスパイスメニューへの好奇心が膨らむ
三嶋

各店舗が1つずつ担当する国を選んで、その国をイメージしたメニューを考案するという企画。店主さんたちへ依頼したところ、最初は「難しくない?」みたいな反応が多かったのですが、そこはさすが大阪の名店。蓋を開けてみるとこちらが想像していた以上に気合いの入ったメニューの数々に、驚かされました! お客さんがワクワクするのはもちろんですが、店主さん側がワクワクしながら作っているのが伝わってくるようで。その本気に感動です。

4回目を迎えた「SAVE THE CURRY」。こちらも世界の料理をテーマに、創作カレーツキノワと堕楽暮が参戦!

今回の「SAVE THE CURRY」は「世界と出会った大阪スパイスカレー」のテーマに合わせて、創作カレーツキノワと堕楽暮がコラボメニューを考案。心斎橋PARCO地下2階のTANK酒場を会場に、店主2人によるトークショーや「SPICE DIVE! OSAKA」の企画を担当した株式会社食欲 代表のタケナカリーさんによるトークショーも開催されました。

堕楽暮×創作カレー ツキノワ「世界まるごと妄想カレープレート」。世界のナナ大陸をオマージュしたメニューをを考案し、ひと皿で世界一周できるという夢のようなプレート
着いて早々「スペシャルコラボカレープレート」を食べるタケナカリーさん
カレーの他にも、堕楽暮による「オーストラリアのマカダミアナッツを盛り込んだ、カルダモン薫るイタリア菓子ティラミス」が大人気

「世界まるごと妄想カレープレート」は、「カンガルーとタスマニアペッパーのスパイスコンフィ(オーストラリア)」や「BBQマスタードビーフキーマ(北アメリカ)」など、普段は食べられないようなカレーが登場。スパイスと肉のガツンとした味わいに「メキシカンサルササラダ」が爽やかなアクセントに。中央には、「山椒香る和出汁で炊いたかやくごはん(日本)」が。日本が世界各国の繋ぎ目になるような演出とともに大陸を巡る楽しさで溢れていました。

ここで、創作カレーツキノワの店主・菅さんと、堕楽暮の店主・カキウチさんにメニュー開発の感想を聞いてみました。

菅さん

いつもは出汁をメインにしたカレーを作っているので、現地の味わいを重視したカレーを作るのは、自分にとっても新たな試みでした。10年以上カレー店をやっていますが、今まで踏み込んでこなかったフィールドに足を踏み入れた感じがあり、まだまだ発見があって刺激になりました。また、かっきーとやりたいですね。

カキウチさん

「7大陸カレーを菅さんとやりたい!」と、巻き込みました(笑)。もともと自己解釈で料理をするのが好きなんで、楽しかったですね。向こうの国のメニューをアレンジしたり、食材をどう組み合わせたらカレーになるかを考えて。いろんな組み合わせで食べられるのがカレーの良さですしね。

「万博というものを受け止められる料理こそが、カレーだった!」と楽しそうに語る、かっきーさんと菅さん
会場ではトークイベントだけでなく、カレー好きDJが次々に場を沸かせていく
更には、カレーの歌しか歌わない、ジェンダーレスエイジレスアーティストのかりぃーぷぁくぷぁくさんによるライブも! 新曲「月の輪で会いましょう」を披露してくれた。「スパイスカレーブームは90年代の渋谷系ブームに似ている」という持論のもと作曲された、渋谷系インスパイアなカレー愛に溢れた一曲。「創作カレー ツキノワ」をはじめ大阪スパイスカレーの重要ワードが詰まったカレーラブソング

大阪だから実現した!? 31店舗の腕の見せ所、世界の料理×スパイスカレー。

イベント中に行われたトークショー「CURRY TALK」では、関西カレー保安協会の三嶋達也さんと、株式会社食欲 代表のタケナカリーさんが登場。「SPICE DIVE! OSAKA~世界と出会った大阪スパイスカレー~」を企画したタケナカリーさん。三嶋さんと「実際どうだった?」というイベント実現までのエピソードを語り合いました。

タケナカリーさんは、カレーやスパイスに関わるプロデュース事業、執筆、商品開発、コンテンツ制作などを手掛け、Japanese Curry Awards 審査員も務める。

タケナカリー

実はこの企画、大阪でやってみたかったんですよ。大阪のカレー屋さんにお題を投げたらどう返ってくるんだろう? って。やっぱり東京だとちょっとありえない。東京の場合「うちはインド料理だから……」というような返答が多そうだなって。

三嶋

なるほど。今回、大阪・関西万博の参加国から選ぶという縛りがあったんですが、カレー屋さんによっては、普段出しているメニューに近い国が参加していなかったりして。ちょっと難しそうだなって気持ちも最初はありました。

タケナカリー

カレー屋さんが選んだ国を見た時に「このカレー屋さんがこの国で!?」って、僕信じられなかったんです(笑)。結構無茶振りしたんですか?

三嶋

依頼する時に参加国のリストを渡して「できるだけみんなが選ばなさそうなところを、3つぐらい候補としてお願いします」と言ってみたんです。そしたら本当に、選ばれにくいだろうなと思っていた国ばっかり希望として返ってきて! 逆に途中から、タイとか韓国とかわかりやすい国を入れてもらえませんか?ってお願いした場面もありました(笑)

タケナカリー

それはやばいなあ(笑)。虹の仏さんとか、アンゴラ共和国を選んでますけど、なんでこの国を選んだのかめっちゃ気になりますね。

タケナカリー

虹の仏さんが作るカレーについて調べたら、アンゴラ共和国のムアンバっていう料理をもとにしてるらしくて。鶏肉とピーナツバターをパームオイルと一緒に煮込んだ料理のようなんですが、すごくマニアックなチョイスだなと思いましたね。

虹の仏による、アンゴラ共和国の郷土料理ムアンバを探求して生まれた味とは?
三嶋

旧ヤム邸の植竹さんからは、「ベタで申し訳ないんですけど、東ティモール民主共和国でお願いします」と返ってきたんですね。一瞬「あれ、東ティモールってベタやったっけ……?」って(笑)。日本ではまだ東ティモール料理の認知度は低いですよね。

タケナカリー

僕、調べたんですよ。東ティモール民主共和国は長い間ポルトガル領だったようで。ポルトガル料理は豚肉を使うものも多くて、なんとなくポークビンダルー的な要素を含んだ料理がある国のようなので、おもしろいなと。

三嶋

何を根拠にセレクトしたかは、各店主に聞いてみたいところですよね。全店に聞いてみたい。

旧ヤム邸は「東ティモール民主共和国」をアレンジ
三嶋

僕は自分の店で、ナウル共和国を選んだんですが、いったことはないです。でもサムシングライスといって「おかずとお米」という食文化があるようなので「そのおかずにスパイスを入れたらカレーになるやん!」って。もしもナウル共和国にカレー屋があったら? みたいな考え方でやっています。もちろん現地の料理に沿ったやり方もいいんだけれど、そこが腕の見せ所かなと。

ドラマチックカリー ゴールデン中崎は期間中様々なナウル風のカレーを提供。写真はナウル風ポークビンダルーカリー
タケナカリー

なるほど、妄想していくわけですね! 東京でもできる店はあると思うんですが、今回みたいな打ち返し方はあんまりできないように思いますね。

三嶋

「おもろい」という世界観を、すごく建設的に捉えるかおふざけと捉えるかという差も大きいかなと思いますね。大阪でおもろいと言ったら、それはおちゃらけてるとかじゃなくて、インタレスティングの先を極めていこう、興味の先を突き進んでいこうという考え方があると思っていて。それがバカみたいであっても、間違った情熱の掛け方だったとしても、いったん進んでみるというのが、大阪のおもろいやと思うんです。

スパイスカレーからは美味しさだけでなく、大阪人の精神まで見えてくる

トークイベントはその後、大阪で育まれた現地系のカレーの話や関西カレー保安協会の今後の活動へ。世界の料理とカレー店のコラボメニューを体験するひとときは、美味しいだけでなく大阪で育まれた個性と出合う体験のようにも思えます。

自由な発想で生まれるカレーカルチャーが続いてきたのは「正しいかどうかよりも、美味しいかどうか、そしておもろいかどうかを大切にする土壌があるから」と三嶋さん。正しいことを外れることに対する抵抗や恥じらいがない関西だからこそ、生まれたカルチャーだと言います。関西カレー保安協会は、そんな大阪らしさを表すスパイスカレーがご当地グルメとして確立されることも目指しているそう。

「お好み焼きやたこ焼き、焼きそばなどいろんなご当地グルメと違って、味の選択肢が溢れているのがスパイスカレー。好きなひと皿を探すのは宝探しみたいだし、ゆくゆくは自治体も巻き込んで、大阪の誇れる文化として打ち出していきたい。大阪ってなんでもあるけど何にもないと昔から思っていて、でもスパイスカレーがそれを変える名物になったらいいなと思うんです。カレーといっても、あんたが思ってるカレーじゃないからね、大阪に行くとカレーの意味が変わってくるんやから!と(笑)」関西のカレーへの情熱と大阪を盛り上げたいという気持ちが伝わってくる、三嶋さんのコメント。

大阪の街が持つ歴史と土壌、精神を自然と内包するスパイスカレー。関西カレー保安協会では、その魅力を発信する新しい仲間も募集しているそう。「SPICE DIVE! OSAKA~世界と出会った大阪スパイスカレー~」で、奥深いスパイスカレーのおもしろさに心が震えたあなたも、ぜひ一緒に活動してみてはいかがでしょう?

取材・文:小島知世
編集:トミモトリエ
写真:北川暁
企画・編集:人間編集舎

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